依頼を受けた当事務所所属弁護士が、その労働組合がどのような労働組合かをご説明したうえ、今後の進み方についてご説明した。.....
1 回答書の重要性
団体交渉は、組合から団体交渉の申入書が届くことによってスタートします。
この組合からの団体交渉の申入書に対して、正当な理由がないにもかかわらず無視したり放置したりすると、団体交渉の不当拒否となり、不当労働行為となってしまいます。
また、団体交渉の申入書と一緒に、組合からは色々な要求事項が記載された要求書が交付されることがありますが、この要求書に対して、会社の見解を回答しないことも不誠実交渉として不当労働行為となってしまうことがあります。
ですので、団体交渉の初動対応としては、団体交渉に応じる意思と要求書に対する会社の見解を書面で正確に組合に回答することが必要不可欠になります。
ただ、組合への回答書の作成は、団体交渉を初めて経験する会社にとっては難しい作業になります。
どのようなことを記載すれば良いのか、記載してはいけない内容があるのかなどについて不安な点も多いと思います。
以下では、組合への初回の回答書に記載すべき内容についてご説明いたします。
なお、回答書を作成することは会社にとって非常に有用な作業になります。会社の考えが整理され、今後の方針を明確にできるほか、組合とのやり取りを証拠化することができ、後日の紛争を回避する作用も期待できます。
2 回答書に記載すべき内容
⑴ 団体交渉に応じる意思の表明
団体交渉に応じる意思があることをまずは端的に表明します。上記のとおり、団体交渉の不当拒否は不当労働行為に該当し、紛争を大きくしてしまう場合がありますので、組合からの団体交渉の申入れに対しては応じることが基本の対応となります。
【例文】
当社は、貴組合からの令和◯年◯月◯日付けの団体交渉の申入れに応じます。
⑵ 団体交渉の開催日時
組合からの団体交渉の申入書には、組合が希望する初回の開催日時が記載されています。多くの場合はかなり近接した日時が記載されています。
もっとも、この組合の希望に応じなければならない義務はありません。
会社から組合に対して、担当者の予定や会社の準備の時間を考慮した上で、組合の希望日と異なる代替日時を提案してもまったく問題ありません。
【例文】
貴組合からは初回の団体交渉の開催日時として令和◯年◯月◯日18時とのご提案を頂いておりましたが、その日程は差し支えます。
代替日として以下の3つの候補日を提案させて頂きますので、ご都合の良い日時を令和◯年◯月◯日までにお知らせください。
① 令和◯年◯月◯日18時〜20時
② 令和◯年◯月◯日18時〜20時
③ 令和◯年◯月◯日18時〜20時
なお、いずれの日程も2時間程度を目安とさせて頂きます。
注意すべき点は終了時刻を明確にすることです。終了時刻が明確になっていないと組合がなかなか団体交渉を終了させてくれないことがあります。
代替日を提案する際には「令和◯年◯月◯日18時〜20時」というように終了時刻を明確にしておくと良いでしょう。
⑶ 団体交渉の開催場所
組合からの団体交渉の申入書には、組合が希望する開催場所が記載されています。だいたいの場合は①会社の会議室、②組合の事務所が希望として記載されています。
もっとも、会社の会議室や組合の事務所は初回の団体交渉の開催場所としてはあまり適当な場所とは言えません。
会社の会議室は利用時間に制限がないため、団体交渉の時間が長くなってしまう傾向があります。関係のない他の社員の目も気になります。また、組合の事務所は完全にアウェイであり、対等な交渉ができなくなってしまう危険性があります。
多少の費用がかかっても会社周辺の会議室など公共の場所で実施するのがベターです。
【例文】
初回の団体交渉の開催場所として当社の会議室で開催したいとのご提案を頂いておりましたが、下記の会議室を予約いたしました。当日は開始時刻である18時に◯◯会議室◯号室までお越しください。
記
◯◯会議室◯号室
住 所:◯◯◯
TEL:◯◯◯
⑷ 会社側の出席者
組合は、団体交渉に社長の出席を求めてくるケースがあります。
もっとも、このような組合からの要求については必ずしも応じる必要はありません。団体交渉で交渉される事柄について会社から一任された担当者が対応することで法的には問題ありません。
(ただ、団体交渉で交渉される事柄についてまったく決済権を有しない社員が一人で団体交渉に対応することは不誠実交渉として不当労働行為になる可能性がありますので注意が必要になります)
【例文】
貴組合は、団体交渉への当社社長の出席を要求されておりますが、現時点においては社長が団体交渉に出席する予定はございません。団体交渉について一任を受けた◯◯が出席いたしますので予めご通知いたします。
⑸ 会社側の連絡先
会社側の団体交渉の窓口は一つに決定しておいたほうが良いでしょう。
【例文】
団体交渉に関する当社の連絡先は下記のとおりになりますので、ご連絡を頂く場合はこちら宛にお願い申し上げます。
記
◯◯部◯◯課
TEL:◯◯
担当者 ◯◯
同 ◯◯
⑹ 要求書に対する回答
賃金アップなどの要求について
組合から賃金や賞与をアップしてほしいとの要求があることは良く見受けられることですが、組合からのこのような一方的な要求にすぐさま応じなければならない法的な義務はありません。
会社が法律や組合員との労働契約に違反する行為を行ってしまっている場合は別ですが、その他の協議事項については現時点での会社の見解を明確に回答すると良いでしょう。
【例文】
貴組合からは、令和◯年◯月◯日付けの要求書において、令和◯年◯月の賞与を◯か月分としてほしいとの要望を頂いておりました。
もっとも、当社の現在の経営状況からしますと、前回の令和◯年◯月時の賞与と同一の◯か月分の支給が現実的な数字となりますので、ご理解頂くようお願いいたします。
会社が保有する資料等の開示要求について
組合が会社の就業規則や決算書等の資料のコピーを組合に交付してほしいと要求してくることがあります。
もっとも、このような資料の開示についてもすぐさま応じなければならない法的な義務はありません。特に、会社の決算書などは会社にとって重要な情報が記載されている書類になりますので、一般的に安易に開示すべきではないでしょう。仮に、開示するにしても本当に必要な部分に限って開示すべきです。
【例文】
貴組合からは、当社の決算書の写しを交付してほしいとのご要望を頂いておりましたが、◯◯の点に関する協議において、決算書の内容は必ずしも必要なものではありませんので、当社としては決算書の写しを交付することは考えておりません。
3 弁護士へ依頼するメリット
⑴ 書面作成等の負担軽減
当事務所が団体交渉への対応を受任した場合は、組合への回答書やその他の文書の作成については、会社と十分な打ち合わせを行った上で、当事務所が文案を作成いたします。
会社は書面作成の負担を軽減することができますので、今後の方針決定のほうに集中することが可能となります。
⑵ 法的に応じる必要がある要求と応じる必要のない要求の峻別
組合からの要求には、会社が法的に応じる必要のある要求とそうでない要求が混在していることがあります。ただ、これを正確に峻別するためには、労働法や団体交渉に関する知識が必要になりますので、団体交渉が初めての会社にとっては簡単なことではありません。
当事務所が受任した場合は、要求書の内容について会社と一緒に検討し、法的に応じる必要があるものとそうでないものを明確に峻別し、妥当な解決を目指します。
執筆者:津木陽一郎
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