依頼を受けた当事務所所属弁護士が、その労働組合がどのような労働組合かをご説明したうえ、今後の進み方についてご説明した。.....
1 問題社員とは
問題社員とは、簡単に説明しますと、会社に悪影響を及ぼす社員のことを言います。
ただ、悪影響を及ぼす社員と一言で言っても、そのタイプは多岐にわたります。
「業務命令に従わない」
「規則違反を繰り返す」
「仕事をさぼる」
「遅刻や無断欠勤を繰り返す」
「セクシャルハラスメント、パワーハラスメントを繰り返す」
「他の社員との協調性がない」
「能力不足」
「金銭的問題を起こす」
「法令に違反する言動を行う」
など様々なタイプの問題社員が存在します。
問題社員の特徴としては、ルールを守ろうとする規範意識が乏しい、自信過剰で自分のことを過大評価する、自己を正当化する、他人の非に厳しい、自己中心的、攻撃性が高い、協調性がないといった特徴を持った社員に多く見受けられます。
2 問題社員を野放しにした場合の会社のリスク
このような問題社員を放置しておくと、会社の生産性が下がるほか、職場環境が悪くなり他の社員の士気が下がるなどの弊害が生じます。そして、問題社員のせいで優秀な社員が会社を辞めてしまうようなことになれば、会社への悪影響はかなり大きなものになります。
このように、問題社員を漫然と放置することは会社にとって大きなリスクであり、当該問題社員への適切な対応が必要となります。問題行動のレベルによっても対応方法は異なりますが、問題社員に何らかの処分を課したり、場合によっては退職してもらう方向での話し合いを進めるなどその対応を行う必要があります。
また、令和4年4月からは、中小企業であってもパワーハラスメントの防止措置を講じることが義務化されましたので、その観点からもハラスメントを繰り返すような問題社員を放置することは許されなくなりました。
3 問題社員への対応方法
⑴ 問題行動の内容を正確に把握する
まずは、問題行動の内容を正確に把握することが重要になります。
後日、問題社員との間で裁判となるケースもありますので、問題行動について証拠を収集するとともに、報告書を作成するなどして記録化しておくことも同時に行っておくことが重要です。
⑵ 口頭や書面で注意指導を行う
上記⑴で問題行動が認められた場合には、その内容にもよりますが、まずは問題社員に対して口頭や書面で注意指導を行うことになります。
例えば、仕事をさぼる問題社員に対しては「業務時間内は仕事に専念するように」と注意指導を行います。また、能力不足の問題社員に対しては具体的な目標や問題点を示した上で「現在の状況を改善してください」と注意指導を行います。
なお、最終的に当該問題社員を解雇することとなった場合は、当該社員に対して十分な注意指導を行ったという事実が解雇の有効性を判断する上で重要な要素となりますので、可能であれば証拠収集の一環として書面やメールなどで注意指導を行っておくことをお勧めします。
⑶ 始末書や誓約書を提出させる
注意指導を行ったにもかかわらず、問題行動が再び認められた場合には今度は問題社員に始末書や誓約書を提出させるようにします。
始末書、誓約書については、特別な様式が決まっているわけではありませんので、各社で簡単なひな型を用意しておくのもお勧めです。内容としては、問題行動の内容、二度と繰り返さない旨の文言、日時、署名、押印などが記載されていれば最低限の内容としては十分です。
⑷ 配置転換・人事異動を行う
ハラスメント系の問題社員のケースでは、問題社員と被害者である社員を引き離すことが再発防止に繋がりますので、問題社員の配置転換、人事異動を行います。
ただ、配置転換もその有効性を争われることがありますので、対象となる問題社員の従前の業務内容やその他の事情を総合的に考慮した上で、合理的な配置転換、人事異動を行う必要があります。問題社員に対する報復的な意図で行われた配置転換は無効と評価される可能性がありますので注意が必要です。
⑸ 懲戒処分を課す
問題社員に対して懲戒処分を課すためには就業規則に懲戒処分に関する規定があることが前提になります。
各社の就業規則によって若干の違いはあるかと思いますが、一般的に、懲戒処分の種類としては、軽いものから、戒告(けん責、訓戒)、減給、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇などがあります。
上記⑵の注意指導や上記⑶の始末書等の提出を経ても、問題行動が繰り返されるようであれば、その問題行動の程度に従って、戒告→減給→出勤停止などの懲戒処分を課すことになります。
⑹ 退職勧奨を行う(合意退職をしてもらう)
上記⑵から⑸は問題社員の雇用を継続することを前提とする対応でしたが、会社として問題社員に辞めてもらいたいという場合にはまずは退職勧奨を行うことになります。
退職勧奨とは、会社から社員に対して退職するように説得する行為をいいます。事案によっては、いくらかの解決金を提示した上で退職を求めることもあります。
問題社員に心を悩まされた経営者の方々としては、すぐに普通解雇や懲戒解雇に踏み切りたいと思われる方もいらっしゃいます。もっとも、解雇が法的に有効と評価されるためには、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当である必要があり、そのハードルは意外と高いものです(労働契約法16条)。従いまして、解雇が完全に有効であると想定されるケース以外では、まずは合意退職を目指して退職勧奨を試みることが賢明な対応になります。
問題社員との間で退職勧奨の話し合いを行う際は、①1,2名の適切な人数で説得にあたる(大勢が同席するとそれ自体が威圧的と思われます)、②適切な場所、時間を選ぶ(他の社員が近くにいるような状況は避ける)、③発言内容に注意する(感情的な発言は慎む)、④説得の時間は長くても1回あたり1時間程度に抑える、などに注意する必要があります。
ただ、退職勧奨もやり過ぎると違法と評価され、慰謝料の支払いを命じられる可能性もありますので注意が必要です。具体的にいうと、退職勧奨の際に解雇をほのめかす言葉を使用したり、対象の問題社員が明確に拒絶しているにもかかわらず、日時や場所を変えて執拗に退職勧奨を繰り返すことは違法と評価されることもありますので注意する必要があります。
なお、退職勧奨が功を奏して問題社員が退職に合意した場合は、早急に合意書などの書面を作成して、後々になって当該問題社員から解雇されたという主張をされないように証拠を取得しておくことが重要です。
⑺ 普通解雇、懲戒解雇を行う
最終手段の解雇になります。
普通解雇は就業規則に記載がなくても出来ますが、上記で説明したとおり、ハードルはかなり高いものになりますので、会社としては十分な準備をした上で解雇に臨む必要があります。問題社員との口論のなかで「解雇だ!明日から来なくていい」などとその時の勢いで解雇を行うことは絶対に避けるべきです。仮に、そのような突然の解雇を行った場合は裁判でその効力が争われた時はほぼほぼ敗訴すると考えておいたほうが良いでしょう。
4 問題社員に関する裁判例
⑴ 金銭的問題を起こす問題社員に関する裁判例(NTT東日本事件・東京地判平成23年2月25日)
旅費の不正請求を繰り返していた問題社員に対する懲戒解雇の効力が争われた事案になりますが、判決においては懲戒解雇は有効と判断されています。
このように、職場の金銭的問題は刑法上の横領や背任などの犯罪に該当する悪質な行為ですので、懲戒処分のなかでも一番重い処分である懲戒解雇も有効となるケースもあります。
ただ、裁判となった場合は証拠が重要になりますので、問題社員の不正請求を立証できる証拠を収集しておく必要があります。
⑵ 能力が不足している問題社員に関する裁判例(日本アイ・ビー・エム事件・東京地判平成28年3月28日)
業績が著しく不良な問題社員に対する普通解雇の効力が争われた事案になりますが、判決においては普通解雇は無効と判断されています。
能力不足の場合は、業績評価の内容や改善のための努力の有無がポイントとなりますが、解雇という社員の地位を奪う強力な手段はなかなか認められない傾向にあります。
普通解雇に踏み切るためには、配置転換や降格などで対応可能であったか否か、業務改善の機会を十分に付与したか否かなどを慎重に検討する必要があります。
⑶ セクシャルハラスメントを繰り返した問題社員に関する裁判例(日本HP本社セクハラ事件・東京地判平成17年1月31日)
複数の女性部下に対して繰り返してセクシャルハラスメントを行った問題社員に対する懲戒解雇の効力が争われた事案になりますが、判決においては懲戒解雇は有効と判断されています。
セクシャルハラスメントの内容や程度にもよりますが、この事案の場合はかなり重い内容のセクハラ行為が繰り返し行われていたため、懲戒処分も有効とされました。
セクシャルハラスメントの場合はその事実があったのか否か、加害者に対する弁明の機会が付与されていたか否かなどが問題となりますので、適正な手続きに則ってセクシャルハラスメントの事実を把握する必要があります。
⑷ 協調性を欠く問題社員に関する裁判例(ネギシ事件・東京高判平成28年11月24日)
同僚などに対して命令口調で怒鳴ったり、無視を繰り返した協調性を欠く問題社員に対する普通解雇の効力が争われた事案になりますが、判決においては普通解雇は有効と判断されています。
この事案では、配置転換などの他の方法を取り得たか、注意指導を十分に行ってきたかなどの事情が検討されていますが、裁判所は会社が小規模で配置転換は困難であった、懲戒処分こそ課していなかったが注意指導は十分行われていたと判断し、解雇は有効であると結論付けました。
5 問題社員対応を弁護士に依頼するメリット
上記でお伝えしたとおり、問題社員対策の最終手段は解雇という強力な手段で当該社員に会社を辞めてもらうということになりますが、裁判例でも紹介したように、解雇が法的に有効と判断されるためには合理的な理由の有無、社会通念上相当であったかなどの厳しいハードルを超えなければなりません。そして、このハードルをクリアするためには、問題社員を解雇する以前の当該社員に対する会社の対応がどのようなものであったのかがとても重要になります。当該問題社員に対して十分な注意指導を行い、解雇より軽い戒告や減給などの懲戒処分を課し、また、配置転換など他に取り得る手段を検討した上で最終手段である解雇に踏み切るというように、適切な段階を踏むことがとても大切になります。
よって、問題社員への対応については、問題行動が確認できた初期の段階から最終的な解雇を見据えて対応することが重要であり、法律や判例に関する知識なども必要になります。退職勧奨を行う場合であっても、そのやり方によっては違法と評価されるケースもありますので、専門家である弁護士にその手順等も確認した上で丁寧に進めていくことが重要になります。
また、会社は当該問題社員に悩まされてきたというこれまでの経緯がありますので、どうしても感情的な対応を取ってしまいがちですが、外部の専門家を介入させることによってそのような感情が中和されるという効果も期待できます。
以上のとおり、問題社員対応については、弁護士に依頼することによって安心して進めることが可能になり、そのメリットはかなり大きいと言えると思います。
6 当事務所の解決事例の紹介
⑴ 士業事務所の事例
業務命令に繰り返して違反する女性社員に対する対応を依頼されました。
ご相談の当初は会社としては解雇も辞さないという強硬姿勢でしたが、ご相談のなかで当事務所の判断としてはいまだ解雇の要件は整っていない状況であることをご説明させて頂き、今後の方針は退職勧奨を行うことを中心にして、将来の解雇も見据えて注意指導等も丁寧に行っていくということに決定しました。
退職勧奨の際には、経営者と当該問題社員との感情的な対立も激しかったので、当事務所の弁護士も同席させてもらうことにして、丁寧に説得することを心掛けました。
その結果、当該問題社員は会社都合の退職であれば退職に応じるということになり、無事に会社を辞めてもらうことができました。
この事案では、仮に当事務所へのご相談の前にそのまま解雇をしてしまっていた場合は解雇が無効と判断されるなどの結果が想定されましたので、ご依頼のメリットはかなり大きかったものと自負しております。
⑵ 建設会社の事例
会社のお金を横領していた経理社員に対する対応をご依頼されました。
ご相談のなかで、その社員の横領金額は1000万円を超えることやその方法も悪質なものであることが分かりましたので、懲戒解雇が相当であることや会社の意向次第では刑事告訴も可能であることをお伝えしました。
最終的な会社の判断としては刑事告訴までは行う必要はないが、懲戒解雇を実施するという結論になりました。
当該問題社員に懲戒解雇を告げたところ、当初、当該問題社員からは懲戒解雇は重すぎるとの抵抗がありましたが、会社から刑事告訴もあり得る状況であることを説明した結果、当該問題社員も最終的には懲戒解雇に応じることになり、一件落着となりました。
この事案では、金銭的問題の事例は一般的に厳しい処分が有効になるとの事前知識を持っていたことにより、安心して懲戒解雇を進めることができました。
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