ハラスメント対応について弁護士が解説

職場におけるハラスメント防止の必要性

職場におけるハラスメントとは、地位や立場を利用した嫌がらせのことを言いますが、代表的なものとしては、セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、マタニティ・ハラスメントなどがあります。

職場においてハラスメントが発生すると、

◯被害者の心の健康を害する

◯被害者の仕事に対する意欲が減退する

◯職場の雰囲気が悪くなる

◯職場の生産性が低下する

◯企業イメージが悪化する

などの様々な悪影響があります。

また、ハラスメントがあった場合、会社は①安全配慮義務違反による債務不履行責任(労働契約法第5条、民法第415条)、②不法行為に基づく損害賠償責任(民法第709 条、第 715 条)を負う場合があり、不測の支出を強いられる可能性もあります。

以上のように、ハラスメントを放置しておくと、会社の社会的評価が低下するばかりでなく、金銭的にも不測の支出を強いられることがあり、会社の経営に支障が生じる可能性さえあります。

今の時代、会社にとって日頃からのハラスメント対策は必須のものといえるでしょう。

セクシャル・ハラスメント(セクハラ)

セクシャル・ハラスメントとは、職場における相手方の意思に反する性的言動を行うことを言います。

職場におけるセクシュアル・ハラスメントとしては、

対価型:職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けること

環境型:意に反する性的な言動により、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること

の2つの類型があると言われています。

男女機会均等法第11条は、事業主に対し、職場におけるセクハラ防止のために雇用上必要な措置を講じることを義務付けています。

典型的なセクハラ(人事院規則参照)

【発言関係】

◯スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること

◯聞くに堪えない卑猥な冗談を交わすこと

◯体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」「もう更年期か」などと言うこと

◯性的な経験や性生活について質問すること

◯性的な噂を立てたり、性的なからかいの対象とすること

◯「男のくせに根性がない」「女には仕事は任せられない」「女性は職場の花でありさえすればいい」などと発言すること

【行動関係】

◯ヌードポスター等を職場に貼ること

◯雑誌等の卑猥な写真・記事等をわざと見せたり、読んだりすること

◯身体を執拗に眺め回すこと

◯食事やデートにしつこく誘うこと

◯性的な内容の電話をかけたり、性的な内容の手紙・Eメールを送ること

◯身体に不必要に接触すること

◯浴室や更衣室等をのぞき見すること

◯女性であるというだけで職場でのお茶くみ、掃除、私用等を強要すること

◯性的な関係を強要すること

◯カラオケでのデュエットを強要すること

◯酒席で、上司の側の座席を指定したり、お酌やチークダンス等を強要すること

セクハラの判断基準(名古屋高判金沢支部H8.10.30)

職場において、男性の上司が部下の女性に対し、その地位を利用して、女性の意に反する性的言動に出た場合、これがすべて違法と評価されるものではなく、その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を損害するものとして、違法となるというべきである。

結論:性的関係を強要する行為 当然に違法

身体的接触を伴う行為

(抱きつく行為、胸や下腹部への接触行為、キスなど)

原則として違法
性的な発言・態度 被害者が拒絶の意思を表示しているにもかかわらず執拗に及ぶ場合は違法となる可能性がある
対価型 不利益処分を課した場合は原則として違法

過去の裁判例

◆風月堂事件(東京高判H20.9.10)

女性従業員の業務上のミスに対し、店長が「僕がいない時には君が店長なんだよ!」「昨晩遊び過ぎたから仕事に集中できないんじゃないか?」「君はエイズ検査を受けたほうがよい」「秋葉原のメイドカフェのようなところで働いてたら」などと発言した事案

結論:違法

認容額:169万円(慰謝料50万円、逸失利益99万円、弁護士費用20万円)

◆横浜セクハラ事件(東京高判H9.11.20)

男性上司が女性正社員に対し、入社直後から女性の髪を撫でるなどのセクハラを繰り返していたが、次第にエスカレートし、ある日二人きりになった際に、後方から突然抱きつき、さらにブラウスの上から胸を触ったり、ズボンの上から下腹部を触るなどした事案

結論:違法

認容額:275万円

◆海遊館事件(最判H27.2.26)

職場において、男性上司二人が女性従業員に対し、
「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ」
「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろな」
「この前、カー何々してん」
「今日のお母さんよかったわ…、かがんで中見えたラッキー」
「いくつになったん、もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」
「30歳は、二十二、三歳の子から見たら、おばさんやで」
「この中で誰か1人と絶対結婚しなあかんとしたら、誰を選ぶ」
「地球で2人しかいなかったらどうする」
などの性的発言を繰り返した事案

結論:違法

パワー・ハラスメント(パワハラ)

パワー・ハラスメントとは、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの
であり、①から③までの要素を全て満たすものを言います。

令和2年6月1日に改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)が施行され、事業主に対し、パワハラ防止のために雇用上必要な措置を講じることを義務付けています。

典型的なパワハラ

【身体的な攻撃】

◯殴打、足蹴りを行うこと

◯相手に物を投げつけること

【精神的な攻撃】

◯脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言

◯人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む

◯業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと

◯他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと

◯相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛に送信すること

◯うつ病みたいな辛気臭いやつはいらんとの発言

【人間関係からの切り離し】

◯業務場所の物理的な隔離

◯仲間外し

◯無視

◯自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長時間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること

◯一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること

【過大な要求】

◯長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること

◯新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること

◯労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること

【過少な要求】

◯管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること

◯気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと

【個の侵害】

◯私的な交際等に干渉すること(従業員同士の交際に口をはさむことなど)

◯労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること

◯労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること

パワハラの判断基準(厚労省指針)

「優越的な関係を背景とした言動」の判断基準

当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者(以下「行為者」という)に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」の判断基準

様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮して判断される。

「労働者の就業環境が害されるもの」の判断基準

「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準に判断される。

過去の裁判例

◆JR西日本吹田工場事件(大阪高判H15.3.27)

事実上の取扱いを知らなかった総務課長が作業員を注意したところ、口論となり、作業員は総務課長にむかって「あんた」という言葉を用いた。総務課長は「おい、こら。ここは職場やぞ。外とは違うんや。お前事務所に来い。指導したろう」と言い、これに従わない従業員を事務所方向へ強引に引っ張っていこうとしたが、作業員に振りほどかれたため、これを3回ほど繰り返したという事案

結論:違法

◆A保険会社事件(東京高判H17.4.20)

上司が部下に対して「意欲がない。やる気がないなら会社を辞めるべきだと思います」などと記載された電子メールを部下とその職場の同僚に一斉送信した事案

結論:違法

認容額:5万円(慰謝料)

◆ヴィナリウス事件(東京地判H21.1.16)

うつ病を罹患している従業員に対し、上司である部長が「うつ病みたいな辛気臭いやつはうちの会社にはいらん。会社にどれだけ迷惑をかけているのかわかっているのか」などと30分くらいにわたり罵声を浴びせたところ、当該従業員は自殺未遂を図った事案

結論:違法

認容額:80万円(慰謝料)

◆神戸地判H6.11.4

転勤に応じなかった女性従業員Xに対し「今日から仕事はすべて○○さんにやって貰う。貴方には僕が言ったことをやって貰う」と言い、他の男性従業員に対し「Xには仕事をもって行くな」と言って、Xから仕事を取り上げた事案

結論:違法

認容額:60万円(慰謝料)

職場におけるハラスメント防止策

方針の明確化、社内における周知・徹底

会社の経営陣が、社内外に向けてハラスメント防止に積極的に取り組む決意を表明し、ハラスメント防止に係る会社の方針について明確なメッセージを発信する。

ルールの確立

就業規則や会社の規定を見直し、就業規則等にハラスメント防止規定を設けたり、ハラスメントに関するガイドラインを作成したりして、社内ルールを整備する。

相談体制の確立

ハラスメントの発生の段階で、被害者の相談や苦情に適切に対応できる相談体制を整備する。

実態の把握

社内における職場環境の実態を把握する。

教育研修の実施

ハラスメント対策研修や講習を定期的に実施する。

ハラスメントが発生した場合の対処方法

事情の聴取

・いつどこで誰が何をしたのか

・調査担当者の公平性を確保する

(弁護士等の部外の専門家を入れる等の対応)

・使用者が迅速かつ適切な事実調査を怠った場合、良好な職場環境を整備すべき義務を怠ったとして、損害賠償を負う

事実の認定

・客観的な資料が残されていないか慎重に検討する

(メール、写真、手紙等)

調査の終了

・ハラスメントが確認できなかった場合は、調査の終了を明確にする

懲戒処分

・就業規則上の懲戒処分に該当すること

・選択する懲戒処分が社会通念上相当であること(重すぎないこと)

配転命令

・行為者を他の職場に配転することを検討する

被害者への対応

・プライバシーや職場環境への配慮

・調査経過及び結果の報告・説明

・メンタルヘルスケア

・休職・復職の支援

再発防止策の策定

・上記の通り

当事務所のサービス

繰り返しになりますが、職場においてひとたびハラスメントが発生しますと、会社に大きな悪影響が及ぶことがあります。また、昨今のパワハラ防止法などの法律はハラスメントを防止するための措置を講じることを会社に義務付けています。

このように、会社にとって日頃からのハラスメント対策は必須のものといえるでしょう。

ただ、何から手をつけて良いのか分からない、何を準備すべきなのか分からないといった経営者の方もいらっしゃると思います。

当事務所は、ハラスメントに対応した就業規則の作成、社内体制の整備、相談窓口の設置など、ハラスメント対策についての豊富な経験を有しております。ハラスメント対応にお困りの方はお気軽にご相談ください。

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