団体交渉当日の話し方で気をつけるべきポイント

1 団体交渉における話し方で気をつけるべきポイント

⑴ 発言者を事前に決めておく

団体交渉に会社側から複数名で参加するケースもあります。もっとも、出席者の方々が役割を決めずに自由に発言すると、各発言者で回答内容に微妙な違いが生じてしまい、労働組合からは「会社の意見が統一されていないではないか」「不誠実な回答はやめろ。不当労働行為だぞ」などと非難されることがあります。

このようなやり取りはまったく意味がありませんので、会社の意思を明確に伝えるために、発言者を事前に決めておいたほうがベターです。

発言者を一人に限定する必要はありませんので、例えば、昇給については◯◯社長、残業については◯◯部長というように、議題ごとに発言者を決めておくのも良いでしょう。

団体交渉の発言者には大きな負担がかかることがありますが、議題ごとに発言者を分担することによってその負担を軽減することも可能になります。

⑵ 誠実に交渉する

会社は、労働組合から申し入れられた団体交渉について誠実に交渉することが義務付けられています。

そして、その「誠実」の内容については、過去の裁判例は「使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な書類を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるものと解すべきである」と説明しています。

不誠実な交渉は不当労働行為として労働委員会の救済申立の事件となってしまいます。不誠実な交渉と評価されないために、誠実に交渉を進めることが求められます。

具体的には、

①最初から合意する意思のないことを明確にする

②一般論に終始して議題内容に実質的に踏み込まない

③具体的な回答を示さない

④不合理な回答に固執する

などの交渉方法は不誠実な交渉と評価される可能性がありますので注意が必要です。

⑶ 労働組合の暴言や罵倒に対して冷静に対応する

団体交渉はあくまで話し合いの場であって、暴力や暴言の場ではありません。

もっとも、残念ながら、労働組合のなかには、交渉の際に暴言を吐いたり、机を強く叩くなどの暴力的な行動を取る団体が存在するのも事実です。

そして、このような労働組合の言動に会社側もヒートアップしてしまい、不適切な発言をしてしまうこともあるかもしれません。

もっとも、後日、労働組合からあの発言は不当労働行為に当たると言われ、紛争が拡大してしまう可能性もありますので、このような感情的な対応は適切とは言えません。

労働組合から上記のような暴力や暴言などの不当な言動があった場合は、会社としては団体交渉を中断するという選択肢もあるわけですから、暴言などに対して感情的にヒートアップするのではなく、冷静に対応することが大切です。

具体的には、団体交渉において暴言が確認できた場合には、労働組合に対してそのような暴言を慎むように申し入れるとともに、仮にその後も労働組合の態度が改善されない場合には団体交渉を打ち切る旨を伝えると良いでしょう。

⑷ 安易な発言をしない

労働組合からの強い要求に対して「はい」「わかりました」などと安易に発言してしまうことがありますが、このような安易な発言は絶対に避けるべきです。

労働組合は団体交渉を録音していますので、後で『あの時「わかりました」といったではないか』と糾弾されることになります。

日本人は「はい」という言葉をいわゆる相槌として発言することもありますが、団体交渉は普通の話し合いではありませんので、労働組合に誤解されないように注意する必要があります。

⑸ その場で約束しない

団体交渉の終わりに、労働組合側から「議事録」「覚書」といった書類に署名押印を求められる場合があります。

もっとも、会社としては、労働組合から署名押印を求められてもその場で署名押印はせずに、社内に持ち帰り内容を確認したうえで署名押印をするかを検討するべきです。

2 労働組合が良く使う発言・対応に対する対処方法

⑴ 「労働委員会に不当労働行為救済の申立てをするぞ」

確かに、労働委員会の不当労働行為救済申立の事件で会社が負けた場合、会社の処分の撤回や損害賠償など会社にとって不利益な措置を命じられる可能性があります。

もっとも、団体交渉において会社の不当労働行為を指摘し、会社を萎縮させようとするのは労働組合の常套手段です。「不当労働行為だ」という労働組合の言葉に過度に萎縮する必要はありません。

一方で、不当労働行為(労働組合法第7条)に関する知識(不利益取扱いの禁止、団交拒否、不誠実団交、支配介入など)がまったくない状態で団体交渉に臨むと、本当に不当労働行為に当たる行為をしているケースもありますので、不当労働行為に関する最低限の知識は押さえておくことが重要になります。団体交渉に初めて対応される方は、事前に専門家に相談するなどして最低限の知識は押さえておくようにしましょう。

⑵ 「労働基準監督署に告発するぞ」

労働組合からの労働基準監督署への告発(告発というかどうかは別として)をきっかけに、労働基準監督署が会社への立入調査などを実施することがあります。そして、その結果、労働基準法や労働安全衛生法などの法律に会社が違反していることが認められた場合に労働基準監督署からその是正を求められることがあります。

もっとも、一般的には、会社が労働基準監督署から指摘された法律違反の状態を是正し、または、求められた報告などを遵守している場合は、刑事罰などの厳しい処分が選択されることは滅多にありません。

労働組合の「労働基準監督署に告発するぞ」という言葉を過度に恐れる必要はありません。

⑶ 「社長を出席させろ」

団体交渉に社長が出席しない場合、労働組合から「社長を出席させろ」「◯◯部長が参加するだけでは不誠実団交だ」などと攻撃されることが良くあります。

もっとも、このような労働組合の要求に応じる必要はありません。団体交渉には会社から団体交渉の件について権限を与えられた者が参加すれば、社長が出席しなくても特に問題はありません。

労働組合から上記のような発言があった場合は「私は、貴組合との団体交渉に関することを会社から一任されておりますので、今後も団体交渉に社長は出席する予定はございません」などと返答すると良いでしょう。

⑷ 「ばか」「はげ」「くたばれ」などの暴言

「個人の人格を攻撃するような発言は慎んでください。そのような発言が今後も続くようであれば、交渉を打ち切らせてもらいます。」

団体交渉という憲法で保障された権利であったとしても、それを行使する場面において暴言や暴力などの違法行為が許されないことは言うまでもありません。

上記のとおり、団体交渉において暴言が確認できた場合には、労働組合に対してそのような暴言を慎むように申し入れるとともに、仮にその後も労働組合の態度が改善されない場合には団体交渉を打ち切る旨を伝えると良いでしょう。

⑸ 「要求を受け入れろ」との一方的な要求

会社は団体交渉において誠実に交渉を行う義務は負っていますが、法的に根拠のない要求を受け入れる義務は負っていません。

会社としては「会社はそのような法的義務を負っていませんので、お断りします」と明確に回答して問題ありません。

⑹ 交渉義務を負わない事項に関する要求

会社が団体交渉を行わなければならないのは「従業員の待遇ないし労働条件と密接に関連性を有する事項」あるいは「労働条件その他の待遇、当該団体と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者の処分可能なもの」になります。

会社は何でもかんでも交渉に応じなければならないわけではありません。

会社としては「話し合いに応じることができません。その事項はそもそも団体交渉義務の範囲内ではありません」と回答するべきです。

(7) 事前に連絡されていない事項についての質問に対して

「この場ではお答えできません。持ち帰って検討します。」

事前に知らされない質問については持ち帰って検討することも許されます。但し、当然想定されるはずの質問まで逐一持ち帰って検討するという対応は、場合によっては誠実交渉義務に反し不当労働行為と評価される可能性がありますので注意が必要です。

(8) 同じ質問に対して

「この事項については前回の団体交渉で回答したとおりです。」

団体交渉事項について、同じやり取りが複数回続く場合には、交渉の打ち切りも検討しなければなりません。但し、急に打ち切ってしまうと不当労働行為と認定される可能性がありますので、「これ以上交渉を継続しても合意はできないと思いますが、いかがでしょうか」などと発言し、交渉の打ち切りを組合側に示唆しておく必要があります。


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