勉強会(就業時間外)なのに残業代!?

<経営者からのご質問>

「当社では、従業員のスキル向上のため、就業時間後に勉強会を実施しています。勉強会においては参加者にレジュメを事前配布し検討したうえで出席するようにお願いしています。出席しなくともペナルティは科しませんが、勉強への姿勢を問う意味で、勉強会への遅刻・欠席などについては、上長から注意指導を行うようにしています。この勉強会の時間が労働時間とされることはあるのでしょうか。」

<当事務所の回答>

勉強会への参加が、任意参加ではなく、「義務付けられている(≒強制参加)」と評価される場合には、勉強会(研修・教育訓練などの名称を問わず)の時間は労働時間とされます。

この点、強制参加か、任意参加か、といった形式だけで判断するのは危険です。

御社では、出席しなくともペナルティは科されていないとのことですので任意参加の形式がとられていますが、遅刻・欠席の場合には上長から注意指導が行われるということですので少し心配な点もあります。

注意指導の内容・程度如何によっては事実上参加を強制されていると評価され、労働時間とされる可能性があります。なお、遅刻欠席が注意指導にとどまらず、人事考査に関してマイナス要素とされているような場合には、間違いなく労働時間と評価されることになるでしょう。

<解説>

1 労基法上の労働時間とは

労基法上の労働時間について、リーディングケースである三菱重工業長崎造船所事件(最一小判H12.3.9労判778号14頁、最一小判H12.3.9民集54巻3号801頁、最一小判H12.3.9判タ1029号164頁)は、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間」と定義しています。

そして、同判例は、始業前の業務準備行為等に関し、「事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は、所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ」ると判示しています。

同判例に即して考えますと、就業時間外の勉強会等が労働時間とされる場合とは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できる場合、つまり勉強会等への参加が「義務付けられている」と評価されるような場合です。

なお、労働時間に該当するか否かは「客観的に定まるもの」とされており、仮に、労働契約、就業規則、労働協約等に勉強会等の時間は労働時間に含まないと定めても、勉強会等への参加が業務として「義務付けられている」と評価されれば、労働時間に含まれることとなります。

2 裁判例

ご質問同様に、就業時間外の勉強会への参加が労働時間か否かが争われた類設計室事件(大阪地判H22.10.29労判1021号21頁)は、「(会社によって)予め参加者が割り振られており、日時及び場所が決められていたこと」「勉強会に参加した後にその内容に沿った『投稿(感想文のようなもの)』を起案して会社の掲示板へ投稿するように求められていたこと」「勉強会に遅刻したり、欠席すれば、上長から指導を受けたこと」といった点を認定し、「たとえ、参加しなかったからといって何らかのペナルティが課せられるものではなかったとしても」、会社の「指揮命令下において実施されていたと認めるのが相当である」と判示しています。

<注意すべき点>

行政解釈は、就業時間外の教育訓練に関して、「就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない」(S26.1.20基収2875号)としており、判例も同様の考え方をとっているといえます。

したがいまして、就業時間外に勉強会等を行う場合には、従業員が出席を強制されたと評価されることがないよう十分な配慮が必要です。なお、従業員が自主的に行う勉強会に、会社が場所や飲食物を提供するなどの便宜を図ることは問題ありません。

また、勉強会等の内容にも注意が必要です。勉強会の内容が、

 ①従業員の業務内容と直接的な関係がある、もしくは、密接な関連性がある場合(出席しなければ業務に最低限必要な知識やスキルが習得できないような場合など)

 ②職場環境の維持向上に関する場合(建設業における安全衛生に関する勉強会など)

 ③法令で会社の義務とされている場合(消防法に基づく消化、通報、避難訓練など)

には、当該勉強会の時間は労働時間と評価せざるを得ません。

これらの場合、いくら出席を強制しなかったとしても、従業員は事実上出席を余儀なくされる以上、その時間は労働時間と評価されますので、このような内容の勉強会を行う場合には、就業時間を割いて勉強会の時間を設定すべきでしょう。

就業時間外の勉強会等につきましては、厚生労働省が、リーフレット『労働時間の考え方「研修・教育訓練」等の取扱い』(https://www.mhlw.go.jp/content/000556972.pdf)を発表していますので、これが参考になります。

近時の「働き方改革」により、従業員の労働時間管理はより重要な課題となっています。当事務所は、企業側での労働事件に特化したリーガルサービスを提供していますので、労働時間の管理について、疑問・不安をお持ちの経営者様はお気軽にご相談ください。

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