テレワーク導入における留意点

テレワークとは?

テレワークとは、労働者が情報通信技術を利⽤して⾏う事業場外勤務のことを⾔い、①在宅勤務、②コワーキングスペースなどを利⽤したサテライトオフィス勤務、③モバイル勤務などの形態があります。このテレワークは、令和元年12⽉からの新型コロナウイルスの感染拡⼤により、多くの会社で導⼊されるようになった経緯がありますが、労働者にとっては仕事と⽣活の調和を図ることが可能となり、また、使⽤者にとっても業務効率化、遠隔地の優秀な⼈材の確保、オフィスコストの削減などの数多くのメリットがあり、ポストコロナの新しい⽣活様式においても広く活⽤されることが予測されております。

テレワークについては、厚⽣労働省から「テレワークの適切な導⼊及び実施の推進のためのガイドライン」というガイドライン(最新2021年)が出されており、テレワークの導⼊にあたってはその内容が参考になります。URLは以下のとおりになりますので、興味のある⽅はご覧になってください。

テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン

以下、テレワークを導⼊する際の留意点をご説明させて頂きます。

留意点1(就業規則について)

最近、複数のクライアントの⽅々から「テレワークを導⼊したいけど、就業規則の変更が必要になりますか?」というご相談を頂いております。

結論から⾔うと、テレワークの導⼊に就業規則の変更は必須のものではありません。通常勤務とテレワーク勤務の労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワークを導⼊することができます。ただ、テレワークを円滑に実施するためには、労使間で協議して策定したテレワークのルールを就業規則に定め、労働者に適切に周知することが望ましいことは⾔うまでもありません。

尚、以下の場合は就業規則の変更が必須となりますので特に注意が必要です。

始業終業時刻を労働者ごとに扱う場合

テレワークでオフィスに集まらない労働者について必ずしも⼀律の時間に労働する必要がない時には、所定労働時間はそのままとしつつ、始業及び終業の時刻について労働者ごとに個別に取り扱うことも考えられます。このような場合は、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります(労働基準法第89条第1号)。

テレワークの実施に際して変形労働時間制やフレックスタイム制を同時に導⼊する場合

変形労働時間制やフレックスタイム制の導⼊については、原則として就業規則その他これに準じるものに規定を設ける必要があります(労働基準法第32条)。

労働者にテレワークに要する費⽤を負担させる場合

労働者に情報通信機器、作業⽤品その他の負担をさせる定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされています。(労働基準法第89条第5号)。

テレワークを⾏う労働者について、社内教育や研修制度に関する定めをする場合

当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされています(労働基準法第89条第7号)。

留意点2(テレワーク対象者について)

テレワークの対象者を選定するに当たっては、正社員、⾮正規雇⽤労働者といった雇⽤形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者から除外することのないように留意する必要があります。また、会社内においてテレワーク実施する者に偏りが⽣じてしまう場合には、労働者間で不満が出ないように、テレワークを実施する者の優先順位やその頻度等についてあらかじめ話し合っておくことが望ましいでしょう。

留意点3(労働時間管理について)

テレワークは⾃宅などの本来のオフィス以外の場所で⾏われるため、使⽤者による労働の現認が難しく、労働時間の把握が困難なケースもありますが、テレワークを導⼊した場合であっても、労働基準法に定められた労働時間に関する規制は適⽤されますので、当然のことながら使⽤者はテレワークを⾏う労働者の労働時間を適切に把握することが求められます。

厚⽣労働省のガイドラインにおいては、労働時間の把握⽅法としては、パソコンの使⽤時間の記録等の客観的な記録を基礎として始業及び終業の時刻を確認することを原則的な⽅法としつつ、労働者による⾃⼰申告を補完的に⽤いる⽅法が推奨されています。

具体的には、客観的な記録による把握⽅法として①情報通信機器の使⽤時間の記録、②サテライトオフィスへの⼊退場の記録、そして、労働者の⾃⼰申告による把握⽅法として⼀⽇の終業時にメールによる始業終業時刻の報告などが挙げられています。

尚、テレワークに「事業場外みなし労働時間制」(労働基準法第38条の2)が適⽤されるのかという論点がありますが、過去の裁判例をみると適⽤されるか否かは個別のケースによって不透明な状況にありますので、使⽤者としてはやはり通常の労働時間制度と同じく厳格な労働時間管理を志向することが妥当といえるでしょう。

留意点4(健康管理について)

テレワークなど労働者が事業場を離れて働く場合であっても、使⽤者は安全衛⽣管理体制を確⽴し、安全衛⽣教育を⾏うこと、健康相談を⾏うことが出来る体制を整備することなどが求められています(労衛法第59条、13条の3)。

テレワークの場合は⾃宅等を作業場としているため、作業環境管理は労働者の協⼒なくして実現困難ですが、ガイドラインの「⾃宅等においてテレワークを⾏う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者⽤】」などを活⽤して、作業環境の確認を⾏いたいところです。

また、ガイドラインには事業者⽤のチェックリストとして「テレワークを⾏う労働者の安全衛⽣を確保するためのチェックリスト【事業者⽤】」もありますのでこれを活⽤するのも良いでしょう。

留意点5(⼈事管理について)

⼈事評価は原則として使⽤者の広い裁量に委ねられていますが、不適切な⼈事評価を⾏った場合には裁量権の逸脱濫⽤に当たるとして違法と解される可能性があります。不適切な⼈事評価としては、①時間外等のメールに対応しなかったことを理由として不利益な⼈事評価を⾏うこと、②テレワークの実施頻度が労働者に委ねられている場合などにオフィス勤務を選択していることを理由として⾼く評価することなどがあります。

留意点6(テレワークの拒否について)

テレワークによる就労を使⽤者が命じうるかという点については、①就業規則の規定(配転条項)に基づきこれを発令できるという⽴場と、②テレワークは強制できず個別同意が必要であるとする⽴場がありますが、厚⽣労働省は従前からテレワークの勤務命令を就業規則に基づき発令できるとの前提に⽴ちつつ、労働者の意思や希望を尊重することが望ましいことを⽰しており、この⽴場は2021年のガイドラインにおいても維持されています。よって、テレワークの実施について労働者が拒否の態度を⽰したとしても、就業規則に基づき命令を発することができることになります。

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